インクやインクカートリッジ、それにピエゾヘッドがどんなにすぐれていても、使い方が間違っていてはプリンターの性能を100%引き出すことはできな い。特にエプソンのピエゾヘッドの場合、第3回でも紹介したとおり機械的な力を利用する構造であるため、非常に精密に作る必要があり、高度な精密加工技術 が必要となる。このような精密機械だから、カートリッジにインクがなくなってからも打ち続けると、ヘッドに気泡が入り、ドット抜けや故障の原因になりやす い。気泡はどうして入るのか、気泡はプリンターにどんなダメージを与えるのか、を紹介する。



ピエゾヘッドの大敵は気泡?
《ドット抜けは、なぜ起きる》

 「印刷したらところどころ色が抜けていた」。いわゆるドット抜けだが、インクジェット方式では、たまにそんなトラブルが起こることが ある。原因はインク 内に気泡が入り込んで、ヘッドが空打ちしてしまうため。では、なぜ気泡が入ってしまうのか。そのひとつの原因に、インクが無くなったにもかかわらず印刷を 続けてしまうことがある。

 もし、インクがないのがわからなかったら、例え残り少なくなったことを報せられたとしても、ほとんどのユーザーが「まだ大丈夫」と続 けて印刷してしまう のではないだろうか。そして本当にインクが無くなり、印刷ができなくなって始めてカートリッジを交換するというケースが多い。インクが無いのにピエゾヘッ ドが振動していると、気泡がどんどんノズルに入り込んでしまう。このためいくらピエゾヘッドが振動しても、インク内に入り込んだ気泡が緩衝材となってピエ ゾの振動を吸収してしまい、ちゃんと吐出できずにドット抜けなどが起きてしまう。さらに、そのまま印刷を続けると、最悪の場合ヘッドが故障してしまうこと もある。

 こうしたトラブルを防ぐには、交換時期を知らせる合図が示されたら、速やかにインクカートリッジを交換するのが一番。しかし、気泡が 入り込んでしまった 場合、クリーニング機能で除去することができる。ただ、この機能は交換したばかりの新しいインクを使ってヘッドに入り込んだ気泡を押し出すため、多くのイ ンクを消費しなければならない場合がある。何度もクリーニングを行うのはインクを無駄に浪費していることになる。気泡のインク内への混入は、いろいろな意 味で避けたいトラブルだ。


《純正品ならでは、の信頼性》

 カラリオの高画質の秘密のひとつに、カートリッジのインク室とインクの流れる通路の間に、わずかな圧力で開閉するバルブ(EPSON  Smart  Valve Control)を設置して液体のままヘッドに供給されることは「つよインク編」などで述べた。このインクを液体で供給することで、ピエゾ ヘッド方式の性能を最高に引き出している。なぜ再びインクが液体であることを強調するのか、といえば、カラリオの純正品以外ではスポンジ状のものに染み込 ませてインクを保存するフォーム方式を採用しているものがある。このフォーム方式では、インクが沈降してしまい、高画質印刷を実現できない可能性があるた め、メーカーでは純正インクを推奨しているのである。

フォーム式では顔料が沈降するため、インクが少なくなる ときれいな画質は得られない エプソンのカートリッジでは沈降が起きないので、最後ま で高画質が得られる

 また「インクエンドを知らせるサインが点いたので取り替えたら、使い終わったはずのインクカートリッジを振るとちゃぽちゃぽと音がし た」ということを耳 にする。これは空うちによる気泡の混入を防ぐため、あえてインクを残こすようにセーフティマージンを設定しているためだ。残量となるインクは、常に一定に なるとは限らない(印刷イメージや気温・湿度等の環境によって実消費量が異なるため)が、全体の10分の1から10分の2程度である。ただし、ピエゾヘッ ドを守るためのインクのコストは、価格に反映させていないし、エプソンが定める枚数を達成してからインクエンドを示すメッセージが表示される。

 ピエゾヘッドの場合、交換タイプの使い捨てヘッドと異なり、環境にやさしいパーマネント方式だけに、インクに気泡が入り込むことは最 悪の致命傷になりか ねない。気泡の混入を防ぐためのさまざまな努力をメーカーは行っているわけだが、ユーザーも注意書きをよく守って正しく使うことが、最高のプリンターライ フを楽しむ秘けつといえるのではないだろうか。

 




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