インクジェットプリンターで印刷した写真プリントがしばらくすると色あせてしまう。そんな経験は、だれにもあるはず。これは大気中のオゾンや蛍光灯の光 などにより、印刷されたインクが化学反応を起こすことにより生ずるもの。

 セイコーエプソンでは、こうした色あせを長期間防ぐ新インク「つよインク」を開発するとともに、「つよインク」の性能を最大限に引き出すためのプリン ター周辺技術を開発した。写真画質で長期保存ができ、高速印刷を実現したインクジェットプリンター新「カラリオ」に搭載された新技術を8回シリーズで紹介 する。


つよインク 色あせに強いインクの秘密
<色あせの敵…オゾン、光、水>

【オリジナル画像】
今までのインク(染料)
(2002年製PM-930C、オゾン加速試験前)


(C)Yoshihiko Ueda
【オリジナル画像】
つよインク(新顔料)
(2003年製PX-G900、オゾン加速試験前)


(C)Yoshihiko Ueda

今までのインク(染料)、プリント3年後
(2002年製PM-930C、オゾン加速試験後)
※直接空気に触れる状態で、3年間放置した状態をシミュレーション


つよインク(新顔料)、プリント3年後
(2003年製PX-G900、オゾン加速試験後)

 インクジェットプリンターで印刷した写真プリントの色あせは、空気中のオゾン、蛍光灯の光、水などが主な原因。

 まず、オゾン。空の彼方の成層圏にあると思われがちだが、実際には私たちが生活する大気のなかにも存在する。ここちよい気候に誘われて窓をよく開けるよ うになる季節には、部屋の中のオゾン濃度も上昇。酸化性ガスであるオゾンにより、空気に触れる状態に置かれた写真プリントは、すぐに色あせてしまう。アル バムなどに入れて、光や大気に直接触れないように保存すれば、100年以上色あせは防げるが、大気にさらされた状態で飾られれば1年ももたない場合もあ る。

 さらに、どこの家庭にもある蛍光灯。この光も写真プリントを少しずつ色あせさせていく。また水分も写真プリントにとっては大敵。テーブルに置いたままの 写真プリントに子供がうっかり飲み物をこぼしたり、飾ってある写真プリントを水分のついた手で触ってしまったりといったケースは意外と多い。そんな日常で 起こる色あせ要因から写真プリントを守るのが、耐オゾン性、耐光性、耐水性に優れる「つよインク」だ。

 「つよインク」には、顔料インクと染料インクの2種類がある。

 顔料インクは、色材が粒子の状態で存在しているものであるため、オゾンや光などに対する攻撃に強く、色あせがしにくいという特徴がある。しかし、色材の 粒子が大きいと印刷物の表面が凹凸になり、光の乱反射により発色性と光沢性能が低下する。その結果、色むらや光沢むらなどが起こりやすくなる可能性があっ た。



 このため「つよインク」の顔料インクの開発で取組んだのが、色材の超微粒子化。現在、写真と同等以上の高画質印刷を可能にしているのは、グラビアに代表 される商業印刷。そこで使用される顔料インクの色材を上回る超微粒子を作り出せれば、商業印刷を超える画質がプリンターでも得られるはずだからだ。何度も の試行錯誤の結果、グラビア印刷で使われている色材の10分の1以下の超微粒子を作り出すことに成功、凹凸の少ない高画質印刷を実現した。

 色あせがしにくいという顔料インクの特徴を生かしながら、染料インクなみの発色性と色の再現性、光沢性能を実現した「つよインク」は、写真用紙の場合 で、顔料インクの耐オゾン性は30年、耐光性は80年を達成。さらに耐水性にも優れ、水に濡れても色にじみせず、長期の写真画質が得られるようになった。

 一方、染料インクは、インク滴が紙に染み込むことで色を再現する仕組み。顔料に比べ定着性や発色性、光沢性に優れるものの、オゾンや光によって短期間で 色あせしてしまう等が課題だった。



 「つよインク」の染料でも、こうした課題をクリアするため、分子レベルでの改良を実施。従来オゾンや光に攻撃されやすかった部分の分子構造を見直し、補 強することで色あせに強い染料インクを開発した。この結果、写真用紙の場合で耐オゾン性10年、耐光性20年の長寿命を実現した。

 色あせしない「つよインク」は、色材の超微細化と分子構造の改良という文字どおり"目にはみえない"技術に支えられているのだ。

※耐オゾン、耐光年数の数値は、セイコーエプソンによる各加速試験結果より引用した。





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