熱を使わずインクを飛ばす
<写真画質で高速印刷を実現…ピエゾって何?>

 インクジェットプリンターは、インクを飛ばして印刷する方式だが、その飛ばし方には大きく分けて2通りある。ヒーターで加熱し、発生した気泡の力でイン クを飛ばすバブル方式と、電気を通すと変形する素子(ピエゾ素子)を利用してインクを飛ばすピエゾ方式の2種だ。

 バブル方式は、熱を加えるためヒーターやインク、インクヘッドなどに負担がかかり、それらの部品が劣化しやすいなどの欠点がある。一方、ピエゾ方式は機 械的な力を利用する構造であるため、非常に精密に作る必要があり、高度な精密加工技術が必要となる。どちらの方式も一長一短があるのだが、「カラリオ」で はピエゾ方式(注1)を採用している。その理由は、ピエゾこそが高画質を追求できる技術であるとの自信が、エプソンにあるからにほかならない。

注1:エプソンは、セラミックを積層する独自のMACH方式の採用と、従来から培ってきた精密加工技術を駆使し、高精細・高性能なピエゾ方式のインク ジェットヘッドを実現している。

《1秒間に数万回の微振動》

 ピエゾは、インクを吐出するノズルの背面部分に配置されている。ピエゾ素子に電気を流すと歪むように変形する。その際に生み出される圧力差を利用して ヘッドからインクを飛ばす仕組み。ピエゾ素子にかける電圧を細かく制御することで歪みの大きさを調整できる。また、ノズルから中にインクを吸い込んだり、 押し出したりすることも自在にできるのだ。この歪みを精密かつ最適に制御することでいろいろな大きさの数種類のインクを吐出できるため、写真高画質の印刷 を実現している。

 ピエゾ素子は1ノズル当たり1個ついており、それが1秒間に数万回振動する。新「カラリオ」の場合、一色あたりのノズル数は180で、8色対応機ともな れば1000以上に上るピエゾ素子が常に振動している。インクを吐出していないノズルの振動は、不必要ではないかと思われがちだが、それにはちゃんとした 理由がある。

高濃度の顔料インクは放っておくと粒子の重さで沈降してしまう
 特に顔料インクで、その振動の効果が発揮される。エプソンの顔料インクでは、写真高画質を得るために顔料インクの濃度を高くしている。このためノズル近 傍のインクは粘度が上昇しやすく、放っておくと正常にインクを吐出できなくなりやすい。そこで印字中は絶えずインクにノズルから吐出しない程度に振動を与 えることで、常にインクを撹拌し続けている。この電圧を細かく制御することはピエゾ素子だからこそ実現可能なのである。そして、一見無駄とも思えるピエゾ 素子の振動は、顔料インクを最高の状態で吐出するために必要不可欠なのである。

 ピエゾ方式の特徴は熱を加えずにインクを飛すこと。熱を使わないのでヒーターなどの機構部分が劣化しないほか、インクに熱ストレスを与えないメリットが ある。特に新開発の顔料系「つよインク」は、高い光沢感などを得るため顔料粒子を樹脂コーティングしている。

 もし、このインクに熱を加えるとコーティングした樹脂が劣化して、インクの性能を最大限引き出せない。染料、顔料、さらに樹脂コーティングした顔料イン クなど幅広い種類に対応できるインクジェット方式のプリンター。それこそがピエゾ方式といえる。

熱を使わないピエゾ方式なので樹脂コーティングされた顔料インクでもくっきりプリント
(2003年製PX-G900 写真用紙<光沢>)




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